御薯の里のある京築地域(福岡県行橋市)は
福岡県北東部に位置し、南西を北豊の連山に囲まれ、
京都平野を緩やかな三本の河川が波静な周防灘に注いでいます。
古より豊の国と称されたこの地は、古い歴史と豊かな自然に恵まれ、
季節ごとに山の幸や海の幸などがあふれ人々の生活を豊かにしています。
御芋の里は、最も自然に近い環境と方法で自然薯栽培を行っています。
土質の優しい赤土は、野生の自然薯同様に特有の強い粘りと
風味を生み出します。長年の経験から有機肥料を使用し、
パイプ栽培ではなく、野生と同じように手間をかけながら
自然に成長するように栽培しています。
田舎育ちの私は、炭焼きを営んでいた父と一緒に山へ行き、よく自然薯を掘って遊んでいました。父は地元でもイモ掘り名人といわれていて、堀り方を教わりながら一緒に掘っていた思い出があります。
当時は人よりも長くて大きいイモを最後まで折らずに堀り上げることが子どもたちの自慢でした。あるとき鍛冶屋だった兄が私専用のイモ掘り道具を作ってくれ、それが嬉しくてますます夢中になっていったのです。
この頃の経験から、今でも山に入ると半径10mくらいの範囲にある自然薯の蔓(つる)は目にとまりますし、土を見ればどれくらいの大きさに育っているか分かるようになりました。
もちろん一番好きな食べ物は自然薯です。自然薯は身体への優れたはたらきから“神秘の野菜”ともいわれますが、私も幼い頃から「自然薯に勝る食べ物はない」という想いを抱き続けています。
その後、私は金属加工の会社を立ち上げ、偶然にも広い土地が手に入りました。いずれは工場用地にしようと敷地内にあった山を切り崩していたところ、現れたのが真っ赤な土。優しい土質でまったく石が出ません。「これは自然薯の栽培に最適だ」と直感しました。
実は自然薯は、土の栄養価が高すぎるとうまく育ちません。山の土と同じように、表土を覆う腐葉土程度の肥料でちょうどいい。その点で、この土地は非常に適していることが分かったのです。
せっかく切り拓くのならば、この土を活かして昔から興味のあった自然薯を作ってみようと決意しました。地域の土で特産物を作ることで、地域の活性化につなげたいという想いもありました。
土質の心配はありませんでしたが、いざ栽培を始めてみると「これほど難しいことはない」と困り果ててしまいました。
私が目指しているのは、幼い頃に山で採ったような天然物に限りなく近い粘りや味を持つ自然薯です。だからこそ、同じものは2度とできません。例えば今年と同じ方法を来年やってみても、様々な条件が絡み合い、結果は異なる。近年は異常気象もあり水分調整には特に気を遣っています。
パイプの中で均一に育てる方法も試してみましたが、粘りや味の面でどうしても理想に届かなかったという経験もあります。自分が納得できる自然薯を作りたいという一心で、そうした試行錯誤を続けてきました。
自然に近い育て方をした自然薯は、掘ってみないと出来が分かりません。しかし、重さも形状もバラバラだけれど、1本1本に個性の違う自然薯こそ価値があると私は考えています。
どうすればもっと良いものが作れるだろうと考え出したら、今でも眠れなくなるほどです。でも、難しいことほど価値があるもの。工夫を重ね、皆さんに喜んでいただける日本一の自然薯をお届けしたいというのが、私の究極の夢です。
御薯の里 代表 大嶋 隆美